アメリカを感じるカタログ
別冊Lightning Vol.182 アメリカンヴィンテージ
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2017.07.04
高級万年筆の代名詞ともいえる「モンブラン」。なかでも、「アルティザン コレクション」は職人による高い技術による贅沢な仕様で、毎モデル、文具好きを中心に話題を集めている。
2017年5月に発表された「アルティザン コレクション」最新作のテーマは「京芸術」。京友禅の着物で名高い「千總」とのコラボで生まれた本作は、まさに豪華絢爛。ペン先に至るまで、両社のものづくりの精神を感じさせるデザインと技術がぎっしりと詰め込まれている。『趣味の文具箱 Vol.42』(6月16日発売)では、そのプレミアムな1本にフォーカス。ため息が出るばかりのそのデザインをディテールに至るまで解剖した。さっそく、その「MONTBLANC Homage to Kyoto Artistry」を先端から見ていこう。
千總は1555年に京都に創業、462年の歴史を誇る着物の一流老舗。絹の着物を染織し、公家や宮家に調進してきた歴史を持つ。江戸時代中期に考案された染色技術である手描き友禅を極め、今なお京友禅の象徴であり続けている。その伝統に敬意を込めて、本作のペン先には千總の着物を緻密に彫刻している。
キャップとボディは鋳造した925スターリングシルバーの無垢材をマットに仕上げたもの。そこに手作業で彫刻を施し、さらに18金ソリッドゴールドの象嵌を加えることで、豊かな立体感が生まれている。
ボディとキャップの境のリングには、源氏香の図を彫刻している。源氏香は源氏物語の中でも語られる香道の楽しみ方のひとつ。香料や香木を焚いて香りを聞き分け、縦線と横線の52通りの組み合わせによる香の図で表わす。各図には源氏物語の巻名が付けられている。
ボディには光源氏とその人生の道行きを共にした御所車を大きく配置。キャップには源氏物語の第5帖「若紫」の有名な一場面である飛び立つ鳥と、宮廷の様子を描いている。
尻軸には伝統的な吉祥文様のひとつである花菱文様を彫刻している。花菱は菱形の中に花びらを描いた格調ある文様だ。
キャップトップのモンブランのシンボルマークは、マザー・オブ・パール(真珠母貝)製。透明感があり、光によって様々な色に見える神秘的な素材。
また、実はこの1本、下から上へ遠近感を強調したレイアウトになっている。これも着物ならではの技法に着想を得たデザインだ。
着物では足元に近景や大きな柄を、首元に遠景や細かな柄を置き、平面の図案の中に遠近感を持たせる技法がある。本作でもそれを生かし、万年筆のボディに近景、キャップに遠景を描いているのだ。
今回の万年筆の図案は手描き友禅の図案を担う千總のデザイナーが描いたものを、ドイツにいるモンブランのデザイナーがセレクト。ペン軸向けにおこし直す……という工程を経て完成された。普段は鉛筆で図案を描いているという千總のデザイナーも、今回はマイスターシュテュックのル・グランなど、モンブランの万年筆とインクを使ったという。
気になるお値段は……税込3,456,000円也。世界限定55本というまさに、プレミアな商品だ。
どんな方が購入されるのか……と思ったら、すでに売り切れ間近という。なにしろこれまで一人のアーティストをテーマにしてきたモンブランの「アルティザン コレクション」が、人ではなく「日本の文化、芸術」自体をテーマにすえたというのは初めてのこと。手が届くものであるかはひとまず、お値段以上に特別な1本であることは間違いない。
本作の企画が始動したのはおよそ2年前。コラボレーションが実現するまでのストーリーをモンブラン・千總の両代表へ取材した内容は、『趣味の文具箱 Vol.42』にて紹介している。
(出典:『趣味の文具箱 Vol.42』)
(ヨシザワ)
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¥1,650(税込)
(2017.06.16発売)
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