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flick! digital (フリック!デジタル) 2020年5月号 Vol.1 ...
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2019.05.23
アップル製品を中心に扱ってるフリック!だが、ファーウェイの携帯のカメラがすごく高性能になっていることは気になっていた。一連の美顔モードはもとより、暗所性能もすごいし、最新のP30シリーズでは望遠や広角などでもスマホのレベルではない写真が撮れると聞いていた。
そんなわけで、5月22日に開催されると案内の来ていたP30シリーズの発表会へ行こうと予定していた。……そこにきての5月15日の、米総務省の禁輸措置である。なにしろAndroidスマートフォンにGoogleの機能が使えなくなると、それは致命的だ。
P30シリーズの発表会とはいえ、この問題については何らかのアナウンスがあるのだろうなぁ……と、思って会場に向かった。実際に、登壇したファーウェイの日本・韓国リージョンのプレジデント、呉波さんも、大きな時間を割いてこの問題について話をされた。
実際問題、ファーウェイの技術力と、影響力は、日本の多くの人が思っている以上に高まっている。
同社の発表によると、全世界での2019年第1四半期の出荷台数は5900万台。世界シェアは初めてアップルを抜いて2位(1位はサムスン)。
中国企業といえば、ひと昔前はコピー商品が多いように思われていたが、2018年の研究開発費はサムスン、アルファベット(Google)、フォルクスワーゲン、マイクロソフトに継ぐ世界5位(アップルは7位)。
日本市場でもファーウェイは5位に付けており、P20 liteは最も売れたAndroidスマートフォンでもある。
端末のみならず、基地局など通信機器全体で考えると、圧倒的世界シェアを持つ企業でもある。
特に最近のファーウェイのカメラ性能については、アップル好きを自他ともに認める私でさえ、(仕上がりの方向性の是非はさておき)アップルをしのぐと認めざるを得ないクオリティになっている。
アップルのiPhoneだって、台湾企業であるフォックスコンがファーウェイの隣の中国工場で作っているのだから、中国製品だからといって製造品質においては、もはや決定的な差があるわけがない。
それは、まさに’60年代、’70年代に、敗戦国の貧弱なクルマだと思われていた日本車が世界を席捲していったのにも似ている。中国はもはや世界最大の電子電気製品生産国であり、単に生産を請け負うだけでなく、世界に冠たる製品を作れる国になっているのである(ITや産業に詳しい人にとってはいまさらの話ではあるが)。
そのファーウェイの躍進に冷や水をあびせる発表が、アメリカ西海岸から聞こえてきた。
Googleが、オープンソースであるAndroidの基本部分以外、つまりGmailや、Google Map、Google Play Storeによるアプリの販売などを、ファーウェイに対して提供しないと発表したのだ。
これはGoogleがそう決定したのではなく、米商務省がファーウェイとその関連企業を部品輸出規制リストに載せたためで、Googleとしてはファーウェイとビジネスができなくなった……という表現が正しい。米国がファーウェイを『国家の安全保障や、利益に反する団体だ』と認めたから、Googleはビジネスが出来なくなった……という格好だ。
つまり、Android OSだけでなく、CPUなどのチップセットや、通信チップなども、アメリカの製品は使えなくなるので、非常に影響は大きい。
さらに、この上中国から、報復措置として関税の引き上げや、禁輸措置などが行われると、世界経済はどうにもならない事態に陥ってしまう可能性もある。アメリカにせよ、日本にせよ、今や中国とのやりとりなしにビジネスを進めることは不可能だ。
今回、5月22日の発表時、ファーウェイの日本・韓国リージョンのプレジデントである呉波さんは、壇上に上がるなり、今回の事態で多くの人々に迷惑をかける事態となったことを謝罪し、深く頭を下げた。
そして、ファーウェイが日本にやってきた9年前に遡って話を始めた。
呉波さんが来日したのは8年前。東日本大震災が起った時には、社を挙げて支援活動に協力し、呉波さん自身も東日本に足を運んで復興支援活動に携わったという。
そうやって、日本とともにやってきたのに、今回の米国の発表で、大きな影響を受けることになるのは非常に残念であるとのことである。
今や、ファーウェイのスマホは、docomo、au、ソフトバンクのラインナップでも中心的存在になっており、docomoでしか売られないフラッグシップのP30 Pro以外は、SIMフリースマホとして購入することもできる。日本における影響も少なくないのである。
また、これらファーウェイのスマホにはジャパンディスプレイ、村田製作所など、日本企業も多くの部品を供給している。ファーウェイの製品が売れないと、これらの日本企業にとっても大打撃だ。下手をするとファーウェイがくしゃみをすると、日本企業が風邪をひく……どころか、危篤状態になったりする危険もある。
中国企業が世界の工場として躍進した先には、看板自体も中国の製品が世界を席捲する事態が当然起こる。これは、何年も前から予想すべきことではあった。
対して、アメリカはいつものように関税障壁やその他の手段を取って自国の利益を守ろうとする。
いわばパックス・アメリカーナと、中華思想の世界の覇権争いの代理戦争として、Googleやファーウェイが戦わされているわけだから、企業側としてはとても迷惑な話だろう。
発表会のタッチ&トライで、実際に手に取ってみるとP30シリーズは本当に良くできてると思う。
左右の傾斜した部分も含め、表面全域を覆う6.1インチの有機ELディスプレイ。ティアドロップ型といわれる極めて小さいノッチ。高い処理能力。超高性能なカメラなど、P30 Proは世界一のスマホのひとつであると名乗っても、まったく恥ずかしくない製品に仕上がっている。
特に素晴らしいのはカメラ性能。
画素数は4000万画素で、屈曲型光学系を利用し10倍までをカバーする望遠レンズを内部に収納。デジタルを含めば50倍までズーム可能。
センサーはRGGBからRYYBへと変更し、超高感度センサーと、画像処理、自己学習アルゴリズムを組合せ、非常に優れた暗所性能を実現している。
もちろん、空間認識し背景をボカすポートレートモードや、逆光などの難しい状況を上手くカバーするAI HDR+、長時間露光、超広角、マクロ、手ブレ補正……など、一眼レフでないと撮れないような写真を実現するまでになっている。
こちら、逆光でのポートレート。
通常なら、人物が真っ黒になるような構図なのに、顔もきれいに写っている。
夜は星まで写るらしい。
iPhone XS Maxや、サムスンのS10 Plusとの比較が執拗に登場したが、それらのカメラでは真っ暗にしか写らないような場所でも、天の川が写るらしい。
屈曲型光学系まで内蔵したのだから、望遠性能に関しては他のスマホが敵うワケもない。
本機を含め、スマホのカメラ性能が上がってるのは、単にセンサーやレンズの性能の問題ではなく、画像を取り込んでからの処理が、パソコンさえしのぐほどのスマホのチップセットを使って行えるからで、特に機械学習を使っての処理が使われるようになってから、スマホに入るセンサー、レンズの性能の極限を越えて、性能向上を果たしているように思う。
日本のカメラ業界では「コンデジが売れなくなった」と嘆いているが、このままでは一眼レフクオリティの写真までスマホで撮影できる日は遠くないように思う。
カメラメーカーは本当に、スマホ並みのチップセットを積んで、深層学習の結果を適用し撮影対象をリアルタイムに認識し、撮影設定を変えていくようなスマホの仕組みを取り込んでいかなくて大丈夫なのだろうか?
それはさておき、ではファーウェイはどうなるのか? そして、アップル製品を中心に扱っているフリック!のスタッフとして、この発表会についてどう思ったのかという話。
まず、現時点でのいざこざはともかく、ファーウェイ製品の勢いは最終的には留まることはないのではないかと思う。
短期的には、米現政権の乱暴なやり方に基づいた禁輸措置だし、政治のカードのひとつとしての『ハードな交渉』の一環だから、いつかは解除されるのではないかととは思う。
仮に解除されなかったとしても、ファーウェイは米国製品を使わなくても、独自OS、独自チップセットの開発を水面下で進めているという。
それが、iOS、Androidに次ぐ第三極になるのかどうかは分からないが、Firefox OS、Tizen、Sailfishなどと違い、今回は『世界最大級の企業が使わざるを得なくなる(かもしれない)』ということで、計らずも普及してしまう可能性はある。もう、それしか手がない状態なのだから、もしAndroidが使えないのなら、ファーウェイは自社OSの商品を推進していくしかないだろう。
それが普及していってしまったりすると、アメリカは思わぬパンドラの匣を開けたことになる。
ちなみに、発表会では『現在すでに買っていた製品、並びにすでに店頭に並んでいる製品のOS、アプリ、アップデートについては問題ない(おそらくすでにライセンス料が支払われているという意味なのだろう)』と言っていた。だから、基本的には現在ファーウェイ製品を持っている人、もしくは今買おうとしている人には影響はないはずだ。
しかしながら、この発表会の翌日22日には、docomo、au、ソフトバンクなどのキャリアは、当面予定されていたP30シリーズの発売を棚上げするというリリースを出した。売った後すぐに使えなくなるかもしれない製品を売るわけにはいかないので、確認してから判断を……ということらしいが、ファーウェイにとっては逆風の日々が続きそうだ。
アップル製品を推してきた身としても、そんな規制が早くなくなって、どんな端末でも自由に選べるようになればいいと思う。
ファーウェイが中国企業である限り、中国当局に従わねばならない側面があるということについては難しい問題であると思う。また、そういう国の製品であるからして、今回のような政治的事情で購入できなくなったり、サポートを受けられなくなったりする可能性もなくはない。
それでも、優れた製品が作られ、自由主義経済の元、さまざまな製品が切磋琢磨するのは大切なことだと思う。
私がiPhoneを選ぶのは、カメラの画素数が高いからでも、CPUクロックが高いからでもなく、アップルが持ち続けている精神を評価しているからだ。ジョブズが、そして最近またティム・クックが言ったように、アップルはテクノロジーとリベラルアーツの交わるところに立とうとしている。テクノロジーによって支えられるアップル製品を使うことで、スムーズに、快適に、クリエイティブに飛んだ知性ある生活を行えるようになる。それは他社製品には感じられないスピリッツだ。
しかし、だからといって他の製品を選べなくなっていいというものではない。
再来週のWWDCでその一端が発表されるであろう次期iPhoneと、ファーウェイのP30シリーズを健全に比較検討して購入できる世の中が戻って来て欲しいと思う。
(出典:『flick! digital (フリック!デジタル) 2019年6月号 Vol.92』)
(村上タクタ)
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