2017.10.19
『群言堂』デザイナー・松場さんに習う、捨てない暮らし
世界遺産・石見銀山で知られる、島根県大森町は人口400人ほどの小さな町。松場登美さんのベースは、この大森町にある。物の命を使い切ろうとする松場さんの姿勢には、都市に暮らす私たちにもお手本にしたいところがたくさんあった。
家すらも『拾い物』 荒れ果てていた元武家屋敷をリノベーション
捨てない暮らし。
衣料ブランド『群言堂』のデザイナー、松場登美さんが大事にする日々のモットーだ。ものを捨てないだけでなく、捨てられているものを拾うのも得意。誰もがゴミと思うものも彼女にとっては宝物で、知恵を絞っては新しい命を吹き込んできた。
松場さんが暮らす家も、いわば拾いもののひとつ。30年あまりの間放置され、荒れ果てた1789年創建の元武家屋敷と運命的に出合い、お金を工面して、約13年の年月をかけてリノベーションした。美しく蘇ったその家に暮らし、同時にそこを『暮らす宿 他郷阿部家』として、宿泊客を迎えている。
他郷阿部家では、ゲストとホストがともに食事をとる。そのダイニングテーブルは、小学校にあった階段の腰板を再利用し、椅子も教室で使われていたもの。
「世の中では断捨離が流行っていて、住まいを片付けるためにものを捨てるのをよしとする風潮があるけれど、私は壊れたり破れたりしても、なるべく次の使い道を考えて、ものを使い切りたい。それは、私の祖母や母の時代には当たり前だったこと。誰もが繕いながら大事にものを使っていました。夫と結婚したころはお金がなかったから、家具でも、家電でも拾ってくるしかなかったけれど、お金がないからこそ知恵を出し、いろんなアイデアが生まれくるんです」。
他郷阿部家にいる間は掃除をし、ものの置き場を調えて、玄関に草花を生ける。スタッフへの指示を出す。針仕事で繕うことも大切にする。「年中休みなし、と多くの人に思われているけれど、私自身はそんな意識はなくて。仕事を暮らしの一部として楽しんでいるから、休みが欲しいとか遊びに行きたいと思ったことがないんです。むしろこの場所であれこれ考えるほうが外に遊びに行くよりもよっぽど楽しい。仕事もどんな働き方をするかが大事で、働くことを通じて自分個人としても、人としても満足ができたら、それはもう、趣味を極めるよりも大きな喜びがある気がしています」。
「通りで自然とあいさつを交わす、ヒューマンスケールな街並みがこの町の魅力」。夫の故郷にきて約35年。家族は娘3人、孫8人の大家族に。
元は茶室だった2階の客室の建具は、模様が異なる古いガラスをパッチワークのようにはめ込んだ。飽きずに眺めていられる、と松場さん。
書斎のデスクも廃材を利用、椅子は学校の教室にあったパイプ椅子。他郷阿部家の夏は建具を開けて光と風を通し、開放感を味わう。
部屋の内側からみた、つぎはぎ障子。さまざまな柄の紙をその時の気分で貼り重ねていくことで、思いもよらない美が現れる。
玄関には野の草花を生ける。5月、モミジの枝をプロペラ(種子)だけにして飾った。
●松場登美さん
1949年三重県津市生まれ。夫の松場大吉さんと結婚後、大森町で暮らし始める。1998年石見銀山生活文化研究所を設立。『群言堂』を立ち上げ、商品の企画・製造販売を手掛ける。
(出典:『Kurashi Vol.1』)
(編集 M)
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¥999(税込)
(2017.09.20発売)
ISBNコード|978-4-7779-4814-7
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