バイヤー目線の春アウター
CLUTCH Magazine Vol.73
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2018.08.01
素敵な人を見ると、どんな暮らしをしているんだろうと気になります。そんなお一人が、東京・恵比寿にある『ファーマーズテーブル』店主の石川博子さんです。根強いファンを持つ生活雑貨の店を30年以上も経営してきた彼女の飾らない言葉の端々からは、しなやかで一本筋の通った生き方を感じます。
「子どものころから、お習字もピアノも続きませんでした。健康のためにと、体操を始めてみても3日と続かない。こんな飽き性の私が、30年以上も店を続けてこられたのは、自分の力以上のことをせず、好きなことを自由にやってこられたからだと思います」
そう話すのは、恵比寿にある雑貨店『ファーマーズテーブル』のオーナーである石川博子さん。自分を縛りつけるのはしんどい。だから「ルールを作らないのが私のルール」と言い切る。
「夏休みの宿題とかで一日の時間割を円グラフにするというのがあったでしょ? 一生懸命考えすぎて、結局ストイックなものを作ってしまうから、頑張っても続かないの。ルールも同じ。自分が苦しくなるから作りません」
とはいえ自由奔放、順風満帆だったわけではない。開店当初はお客さんが来ず、不安になって悩んだことも。
「夫に相談したら『やめたいならやめてもいいんだよ。でも、やれることは全部やったの?』と聞かれ、仕事に対するスイッチが入りました」
なんとなく仕事をしていたことに気づいてからは、考え、工夫するようになり、少しずつ壁を乗り越えると、仕事が楽しくて仕方がなくなった。
一軒家に移転してカフェと雑貨店をやったり、精一杯やってきたが、仕事の仕方は少しずつ変わってきたという。
「以前は、他の人がやっていることをやらないと怠けている気がしました。だから大きな展示会には必ず行っていたのですが、今はみんながやっているからって、無理しなくていいかなと思えるようになりました。その時の自分に合う、自分らしい仕事のやり方があると思います」
『ファーマーズテーブル』は表参道・同潤会アパートで開業し、以来30余年。現在は恵比寿に店を構えている。店内が広くなり、「大きな家具も置けて、ディスプレイの幅も広がりました。模様替えは、ただただ楽しい!」
ルールはないが、心地よく過ごすための日課はある。
朝は石川さんが犬の散歩をする。朝食は1年前位からご主人の担当。ご飯と味噌汁、焼き魚などの和食が食卓に並ぶ。化粧は息苦しく感じるからしない。開店の約3時間前に家を出て、15分かけて店まで歩いて行く(雨の日はバスに乗る)。店では『ケメックス』でコーヒーを入れ、店内を眺めながらコーヒーを飲む。
「ディスプレイを整えるのが朝の日課ですが、こうしたい! とひらめいたら大忙し。模様替えの始まりです。家でも模様替えはしょっちゅう」と、とても楽しそう。ともに店で働く娘の水木さんは、「私より子どもだなと思うこともありますが、母が選ぶ店の商品は、全部好きです」と、胸を張る。働く母の姿を近くで見ている娘の言葉は、温かくて力強い。
毎朝、『ケメックス』を使ってコーヒーを入れる。日本で初めて『ケメックス』を扱ったのは『ファーマーズテーブル』だった。
自宅リビングにお伺いすると、壁には家族写真や植物、オブジェなどが所狭しと飾られている。本棚の本もカバーがあったりなかったり。『決めすぎない、整えすぎない』が、心地よい暮らしの空間を生み出している。
(左)壁には写真がズラリ。年賀状には家族写真を使う。
(右)愛犬のアデもお気に入りのチェアは、福岡の骨董品店でひと目惚れしたもの。
(左)思い入れの深い『ケメックス』のコレクション。
(右)30年以上も愛用しているバーバラ・アイガンのマグカップ。
(左)ご主人作の針金のオブジェからアンティーク品、拾ってきたものも!
(右)拾った石のコレクションをディスプレイ。模様や形、色が不思議で、つい見入ってしまう。
休日はこのソファでのんびりする。「ここに座って窓の外に広がる東京の景色を眺めたり、本を読んでコーヒーを飲んだりします」。ソファの上から家の中の景色を眺めていて、飽きたと感じたら、模様替えが始まるのだという。
今、石川さんは60歳。夢を問うと、
「店を続けることが夢。続けたくても、求められなくなったら終えるしかない。だからこそ、今できることを精一杯やるだけです。80歳になっても働いていたいから」
【石川博子さんのマイルーティン】
1. 毎朝、犬の散歩をする。
2. 毎朝、開店前にコーヒーを飲む。
3. 化粧はしない。
4. 夕食は家族そろって外食する。
5. 自分の店には好きな物以外は置かない。
6. 月1回、茨城のセカンドハウスに行く。
7. 毎年年賀状には、家族写真を使う。
* * * *
「ルールはないが、心地よく過ごすための日課はある」という言葉に、ハッとさせられます。自分自身のマイルーティンについて、改めて考えてみたくなりました。
●石川博子
文化女子短期大学卒業後、文化服飾学院卒業。スタイリストを経て、1985年『ファーマーズテーブル』をオープン。著書に『「ファーマーズテーブル」石川博子 わたしの好きな、もの・人・こと』(主婦の友社)
(出典:『Kurashi Vol.4』エイ出版社)
(編集 M)
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¥1,018(税込)
(2018.06.20発売)
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