中野真矢と青木宣篤のQ&A
RIDERS CLUB 2021年4月号 No.564
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2018.04.22
「若手(とくに男性)が何を考えているのかわからず扱いづらい。育てにくい」
「若手のやる気を感じず、冷めていている」
もしそう思っているとしたら、とても勿体ないことです。なぜなら、若手を動かすことこそ、組織・企業の成長につながることだからです。ではどうしたら、若手を動かし、チーム力を高めることができるのか。
若者たちから圧倒的な支持を得て、美容業界において数々のレコードを塗り替えてきた「OCEAN TOKYO(オーシャン トーキョー)」の原動力は平均年齢23.8歳という若手社員の活躍です。その力を引き出しているのが、若きリーダーの中村トメ吉氏。彼には「人を動かす21の鉄則」があると著書『若手を動かせ』で記しています。その中から多くのリーダーが悩む若手のモチベーションについて、大切な3つの鉄則を紹介しましょう。
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■モチベーションは与えるものではない
最近、いろんな場所で「若手のモチベーション」についての悩みを聞きます。僕自身も、よく「若手にどうやってモチベーションを与えているのですか?」と質問されます。誰もが、若手のモチベーション管理に苦労しているようです。しかし大前提として、僕は、モチベーションはわざわざ作るものでも、人が与えるものでもないと考えています。そして、そもそも最初から、全員がモチベーションを持っているものだと考えています。
モチベーションという言葉の解釈はいろいろあるでしょうが、いってみればモチベーションとは「○○がしたい」といった動機のことです。「カッコよくなりたい」とか「この服が欲しい」とか、そんなに大それたことじゃなくても、誰だって自分が○○したいことはあるはずです。これがモチベーションです。
仕事で言えば、「人に喜んでもらいたい」とか「人が考えつかなかった方法を試してみたい」とか。そういった願望は人それぞれにあるものです。それは先輩世代であろうが、若手であろうが、変わりません。
■気分は感情の健康状態
ただ、そういったモチベーションがか弱く、すぐに消えそうになってしまうのは、日々のいろんなことに追われて「気分」が安定しないからだと僕は考えています。どんなモチベーションも、気分が悪ければ、吹き飛んでしまいます。気分とは「感情の健康状態」です。この感情の健康状態がよくないと、モチベーションは保てません。失恋をしたばかりのスタッフは、どんなに夢があっても、カットの練習に打ち込む気分にはなれないでしょう。こういうときに無理をさせても、いい結果は生まれません。
逆に言うと、気分をできるだけ安定させると、本来持っているモチベーションも高まりやすくなります。そして、この「気分」は、上の人間の声かけひとつで、ある程度安定させることができます。
まず、大切なのは、日頃からの観察です。僕は、常にチームメンバーにリサーチをかけて、一人ひとりの感情の健康状態を把握するようにしています。もちろん、日頃から業務をともにしている管理職のメンバーにも、目を光らせてもらっています。若手に会ったときは、ほんのひと言、5秒でもいいので「最近どう?」と声をかけます。その子が道をそれていないか、迷子になっていないかは、短い会話でもわかります。
このひと言の声かけだけでも、若手の気分は安定します。常に「君の頑張りを見ているよ」とメッセージすることで、若手の気分は安定し、モチベーションをキープできるようになります。
■褒め言葉に飢えている若手も、叱られることに飢えている若手もいる
気分をあげるために効果的な言葉は、人によって違います。こればかりは、たくさん対話をしてその若手を観察する以外に方法はありません。一番よいのは、その若手が満たされる言葉を伝えてあげることです。褒められることに飢えている人は褒め言葉が効きますし、中には叱られることに飢えている若手もいます。
落ちこぼれだった若手は褒められると喜び、どこでもエースだった若手は叱られると喜ぶケースが多いのですが、一概には言えないのが難しいところです。何を伝えると相手が満たされるのか、常に社員同士情報交換をしてアンテナをはっておきましょう。
若手を動かす21の絶対法則とは?『若手を動かせ』(中村トメ吉著)
■響かないタイミングに叱っても意味はない
褒めることと同じくらい大事なのが、叱ることですが、これはタイミングが命です。若手を叱るタイミングでベストなのは、本人がやましさを感じるミスをした瞬間をつかまえて叱ることです。この瞬間であれば、本人も反省することができますし、叱られた一件だけではなく、これまでの自分の行動を謙虚に振り返ることもできます。
たとえば、先日こんなことがありました。あるメンバーがヘアショーを行い、それが大成功しました。彼は何か月もその準備に費やし、リハーサルも何度も行って、もうこれ以上は何もできないというところまでやりきって本番を迎えたのです。いくつものチームがステージに出ていましたが、身内のひいき目をのぞいても、そのメンバーのステージはクオリティが違っていました。その様子を見ていた彼の後輩たちも、口々に感動したと言い、感極まって涙目になっていたメンバーもいたほどです。
そんなとき、ステージから戻ってきた彼を迎えるまで待たずに、一人で会場から帰ってしまった若手がいました。ステージで活躍していた彼の同期でした。彼の気持ちは僕もよくわかります。同じくらいのレベルだと思っていた同期が、圧倒的に輝いている様子を見て悔しいと思う気持ちは大切です。でも、そこで彼をねぎらわずに帰ってしまうのは、器の小ささが露呈しています。
自分が向かう志に照らし合わせれば、人の成功をうらやむのではなく、おめでとうと声をかけ、自分は自分の道を全うするために頑張ればいいだけです。そこで帰ってしまうのは、自分の感情にしか目が向いていない自己中心的な考え方で、周りの人を幸せにするという視点がすっぽり抜けているからに違いありません。もっと厳しいことを言えば、ステージに立った人と、帰ってしまった同期の彼の間にある大きな差は、そこにあるとも言えました。
でも、そのとき僕はその帰ってしまった若手にあえて何も言いませんでした。たとえ今、「君は自己中心的だ」と言って彼を叱ったとしても、悔しさが勝っているから響かないだろうと思ったのです。そして、そのことを叱るかわりに、そこから何か月も、彼が次のミスをするのを待ち続けました。こういうときの僕は、かなり気長で執念深いといえます(笑)。
そして、あるとき、彼が致命的なミスをした瞬間を逃さずつかまえて叱りました。「こういうミスがおこるのは、君の仕事を後押ししてくれる仲間に対する配慮や尊敬の念が足りないからじゃないか。自分のことばかり考えているからではないか」。そう伝えました。この言葉は、彼にずどんと響いたはずです。なぜなら、ミスをした瞬間、ほかならぬ彼自身が自分の身勝手さに気づいて、反省したはずだからです。この瞬間を逃してはいけません。
この瞬間に叱ったことで、彼はきっと、ヘアショーのときに一人帰った自分のことも思い返して反省できたはずです。この「自分で気づいて反省できる」タイミングで叱ることが、重要です。人は、自分で気づいたことは、二度と同じ過ちを繰り返しません。
ちなみに、僕は普段、若手のいいところばかりを見るタイプです。感情的にかーっとなって怒ることは一切ないので、僕に叱られたときは、立ち直れないくらいのダメージになると言われています。このときも、別の仲間に彼をフォローしてもらうように伝えてその場を去りました。若手に致命的な一撃を与えることは大事ですが、クラッシュしてしまっては意味がありませんから、その後のサポートも重要です。
若手を動かす21の絶対法則とは?『若手を動かせ』(中村トメ吉著)
■若手を育てられる人材にする
若手はいずれ、若手ではなくなります。次のステップでは、若手を育てられる人材になっていかなくてはなりません。それまでのびのびと活躍していた若手が、チームリーダーになったり、管理職になったとたんに能力を発揮できなくなるというのは、企業に勤める方たちからもよく聞く悩みです。
これは、役職を持つことによって若手が「自分を見失う」ことによっておこる現象です。それまでは自分の志に向かってまっすぐに走っていたのが、「店長らしくあらねば=○○さんのようにならねば」と思ってしまうことにより、せっかく発揮できていた個性を自ら殺してしまうのです。このような勘違いをしてしまった若手にはまず、改めて初心を思い出させます。
具体的には、本人の志を再確認し、どんなリーダーになりたいかを、しつこいほどにヒアリングします。そして、誰かの真似ではなく、「自分が理想とするリーダー像」が見えてきたら、目標設定とそのためのプロセスを細かくあげさせます。そして、そのリストから本人にとっての優先順位を決めさせます。その優先順位には、その人ならではの個性が現れます。その個性こそが「あなたらしさ」であると背中を押してあげれば、安心してまた走ることができるようになります。
役職としての管理職やリーダーといった「ポジション」は会社から与えられるものです。そしてそれは単に業務内容が変化するだけです。役職を与えられたからといって、「真の意味でのリーダー」になれるわけではありません。こんなリーダーになりたいと思ってそれを極め、形にできるようになったときに初めて、その人はリーダーと認められるのです。だから、管理職になったからといって、キャラクターを変えさせる必要はありません。
ただ、一点、若手を導く立場になったものにアドバイスをするとしたら、役職があがるほど「爪を隠す」人になったほうがいいと伝えます。自分の立場をことさら強調する人ほど、若手の本音を引き出せず、力も発揮させることができません。組織としてもうまく機能しなくなります。自分の能力をひけらかすことは、リーダーになるためには、捨てるべき習慣です。
(出典:『『若手を動かせ』』、編集:プレッピー編集部)
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