この春、欲しいアイテム
YOLO.style vol.07
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2016.05.16
最近、なにがあるわけでもなく、イライラする。唐突に漠然とした不安に襲われることがある。何に対しても、なんだか興味が持てない。どんなに寝ても朝起きるのがつらい、食欲が出ない……こんな症状に覚えはないだろうか? これらは自律神経の乱れから起こりうる、体の不調。首を縦に振ったあなたは、自律神経が正常に働かなくなってしまっている可能性がある。
自律神経がうまく機能しなくなっていることからくる、体の不調。心身に悪影響をもたらす負のスパイラルは、日々の生活の中で少しだけ考え方を工夫するだけで、効果があるという。それが、まさに“禅”の思想なのだ。
禅の思想は、「自我」を捨てることを説く。禅寺はとかく厳しい、ということを言われることも多い。しかし、それこそが肝なのだ。秩序のなかでいま目の前のことに全力に取り組むことを己に課す。そうすると他の事柄にとらわれる暇などなくなる。つまり、ひとつのことを一生懸命こなすことで、不安にとらわれることがなくなり、自己のストレス耐性を高めることにつながるのだ。
では、具体的にはどのように取り入れるのが良いのだろう? 禅的暮らしの実践法を、精神科医であり禅宗の住職である川野泰周氏に聞いた。
僧侶が集まる伽藍堂には物がない。何もない状態を表す「がらんどう」という表現は実はここから生まれたといわれるが、物を置かないのは、目の前のことに集中できなくなってしまうから、という理由からだ。色々なものがあるとそれぞれに気を配らないといけなくなり、目の前のことに集中できなくなる。たくさんの物を置くことで安心感を得られたような気になることもあるが、常に意識をすることで逆に心を安らげることはできないのだ。
そのため部屋には見えるところにできるだけ物を置かないようにし、収納で隠すときにもしまった場所を把握できるよう秩序立てて配置しておきたい。最小限に削ぎ落された空間に身を置くことで大切なものだけをしっかりと考える力が研ぎすまされ、気持ちが折れなくなる。
巷では「ながら健康法」や「ながら勉強法」など同時に複数の行動をすることを推奨しているものがあふれているが、実際には気が散ってしまうことで集中力を下げる要因になっている。逆にひとつのことを一生懸命こなすことで、不安に対するとらわれがなくなり、ストレス耐性を高めることができる。
また、集中を必要とする坐禅には、ゆっくりと息を吐くことを重視する腹式呼吸がセロトニンの分泌を促し、心を落ち着かせる効果が証明されている。「ながら」を止めて今に集中する行為は、自律神経を整えることでもあるのだ。
禅宗の寺院は、調理をする「典座(てんぞ)」や、体を洗う「浴堂(よくどう)」など、場所の役割が明確になっているのが特徴。特定の空間に入ることで心構えを切り替えることができるのはもちろん、場所によって行動を変えることで、世の中は変化する存在であるということを身近に感じることができる。
また、自我から離れて人と人の調和のなかで自分を定義しようとする禅の教えにおいて、役割を意識することも大切だ。世の中に対して自分が果たす役割についても明確になっていくからだ。
これにならって、自宅の部屋にそれぞれ役割を与えてみよう。たとえワンルーム暮らしでも、寝るスペースと食事をするスペースを区分けし、寝食分離を心がけるだけでも効果あり。日々の生活にメリハリが生まれ、心が晴れ晴れとしていることに気づくはず。
どうだろうか、禅といわれるとなんだか身構えてしまいそうになるが、考え方は実にシンプル。とにかく、目の前のことに集中し、精いっぱい手をつくすこと。現代における私たちは自分たちで思っているよりもはるかに“気が散って”、自律神経を乱しているのかもしれない。
(ヨシザワ)
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