世界が注目する山の都。
Discover Japan_TRAVEL 山の都・匠の国 飛騨高山
© 1999-2021 Ei-Publishing Co.,Ltd.
2016.08.09
帝国海軍の戦闘機である零式艦上戦闘機、いわゆる零戦(ゼロ戦)。現在、世界に存在する零戦で最も価値があるだろうと思われるのが、尾翼に61-120と書き込まれている『中島第5357号』だ。
なにしろ、このゼロ戦のみが、オリジナルの『栄』発動機、もうちょっと詳しくいえば『栄31甲型発動機』を搭載しており、機体自体もオリジナルの部材を数多く使っている。現在全世界に飛行可能なゼロ戦は5機存在するが、他の修復ゼロ戦はエンジンだけは米軍機のエンジンを搭載したり、機体部材もリバースエンジニアリングで、新造されているのもが多いのだ。
この『中島第5357号』は、我々にとって懐かしい機体であるはずだ。なぜなら本機は’78年以来何度か日本に里帰り飛行しており、我々が子供の頃に目にしたゼロ戦のプラモデルやオモチャ、イラストなどの大半がこの『中島第5357号』をモデルにして作られているからだ。
マニアの間では、ゼロ戦初期の設計コンセプトに沿った優美な二二型の零戦を好む人も多いが、劣勢になった戦況を反映して高速化のために翼端を短く切り、エンジンカウルから武骨な排気管をのぞかせる五二型もまた印象深い。
子供の頃に見た、雑誌のイラストの、沖縄特攻に向かう戦艦大和の上を飛ぶゼロ戦はこの五二型だった。プラモデルにもたいてい『61-120』というデカールが入っていた。いわば、この『中島第5357号』は我々のゼロ戦イメージの源泉なのだ。
しかし、考えてもみれば戦後71年が経っているのだから、クラッシックカーどころではないビンテージ品だ。増してや、一般民生品ではなくいわばレーシングマシンのような研ぎ澄まされた戦闘機。所蔵するアメリカのプレーンズ・オブ・フェイムが日々の整備を怠らないとはいえ、最初の復元から30年が経ち、重整備な必要な状態だった。
そこで、2013年から約2年半をかけて、徹底的な分解整備が行われた。これからも末長くこの貴重なゼロ戦『中島第5357号』を動態保存(飛行可能な状態で保存すること)するための大手術である。
そもそも、この『中島第5357号』は数奇な運命を辿っている。サイパン島で米軍に鹵獲され、12機のゼロ戦が研究のため護衛空母コパヒーに積まれて米国へ。
ⒸPlanes of Fame Photo Collection
その中から4機が選ばれ、ゼロ戦の性能はTAIC(米軍海軍航空情報部)で徹底的に研究された。
太平洋戦争終戦後、民間の整備士専門学校に払い下げられたものを、私費を投じて買い上げ、再び飛行できるまでに再整備したのが、プレーンズ・オブ・フェイム創始者であり、日本軍機に非常に造詣が深いエドワード・T・マロニー氏だったのである。
ⒸPlanes of Fame Photo Collection
(上の写真は、1946年マインズ基地で開催されたエアショーで展示された時のもの)
150機以上の各国の軍用機を保有・展示し、そのうち約40機が現在も飛行可能な状態に維持されているというプレーンズ・オブ・フェイムの技術力、保存、復元にかけられている膨大な労力は他に比するものがないほど。
今回の復元でも、可能な限り本来の部品が使用され、どうしても存在しない部品に関しては部材の厚さなどにもこだわって修復されている。また、細部の塗色や、ストライプ、書き文字などに関しても、以前のレベルをはるかに越えて細かな考証を重ねて復元されている。
コクピット内部の銘板、脚柱覆の荷重表示のストライプ、車輪収容部内部や、フラップ内側の色についても、これまでのものと違う解釈のもとに復元されていて、マニアにとっても興味深い状態になっている。
これでまた、当分の間、この貴重なゼロ戦『中島第5357号』は大空を飛び、その雄姿を見せ続けてくれることだろう。
詳しくはこちら!
¥2,640(税込)
(2016.07.25発売)
この記事を読んだ人におすすめの記事
あわせて読みたい