恐怖から貴方は抜け出せない
珍奇植物生態入門
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2017.06.29
自分の名前の由来は知っていても、名字の由来について知っている人は少ないだろう。ところが、テレビで名字についてのバラエティ番組がレギュラー放送されるなど、これまであまり注目されてこなかった名字にスポットが当たり始めている。身近な家族がつけてくれる名前とは異なり、名字は代々受け継がれてきたもの。名字の由来をひも解くことによって、自分のルーツを知ることができるのだ。
「1日に3回としたら、1年に1000回、一生に数万回と使う名字。あまりにも身近すぎる自分の名字に、実は意味があった。こんな思いもよらない発見が面白いと感じているポイントなのではないでしょうか」。そう教えてくれたのは、NHKの人気番組『人名探究バラエティー 日本人のおなまえっ!』のコメンテーターも務める姓氏研究家の森岡浩さん。仕事先でも「自分の名字は何位か? 由来は?」と森岡さんのまわりに人が集まってくるという。ちなみに自分と同じ名字を持つ人の人数ランキングが知りたい人は森岡さんが運営するウェブサイト(http://office-morioka.com/)で確認できるのでチェックしてみては。
森岡さんが名字に興味を持ったのは中学校に入ったころ。私立の中学へ進学したことで、地元以外から学生が集まってきた。そんなとき先生が生徒に尋ねた「○○(生徒の名字)、おまえの地元は△△村(地名)か?」という問いかけが気になった。名字で住んでいるところがわかるのか? そこで電話帳をめくり、特定の地域に同じ名字が集中していることを知る。その後、大学に進学したころから独学で名字について調べ始めた。ところが、歴史に関する資料をいくら読んでも、全体像がまったく見えてこない。それもそのはず。歴史資料の中心は武士で、江戸時代には武士以外の農民、職人、商人たちが約9割を占めていたことを考えると、歴史学だけでは分かるはずがなかった。そこで、今度は民俗学や郷土史をひも解き、ようやく全体像が把握できたという。
例えば「田中」という名字の由来は、想像どおり田んぼにある。ありふれた名字でつまらない、と思ってしまうかもしれないが、「西田」「前田」など、田んぼを由来とした名字が全国各地に存在するのは、稲作が日本にとって古来からどれだけ大切なものだったのか想像に難くない。
「鈴木」さんもメジャーな名字だが、ルーツは紀伊半島の熊野。諸説あるが、熊野地方で刈りとった後の稲わらを積み上げたものを「すずき」といい、熊野信仰を布教する人たちが共通の名字として「鈴木」と名乗って全国各地へと広がっていったという。
こうしてご先祖様たちの生活に思いを馳せると、「田中」や「鈴木」という名字もなんとも味わい深いものに感じてくる。
難読名字やレア名字について、「へ~」とは思うものの、やっぱり気になるのは自分の名字の由来だろう。森岡さんによると「名字の分布を調べる」のがカギだという。名字は地名に由来することが多いからだ。
では具体的に森岡さんに教えてもらった方法をご紹介しよう。必要なのは全国の電話帳。都立中央図書館や県立図書館などに所蔵されている。まず各県庁所在地のページを開き、自分の名字が多い都道府県をピックアップする。これは、都市部には平均的に各地域から人が集まってくるためで、例えば東京都と全国の名字比率はほぼ同じなのだという。
そこでアタリをつけた都道府県の電話帳を調べていくと、特に集中している地域がいくつか見つかる。次にその地域の古い地名を調べてみる。古い地名を調べるには『角川日本地名大辞典』(角川書店)や『日本歴史地名大系』(平凡社)がオススメで、図書館などに所蔵されていることもあるのでお近くに施設で確認を。そして、自分の名字と地名が一致したらビンゴ!! ただしこの方法は、佐藤や高橋などメジャーな名字では特定するのは難しい。
探し出した地域は、もしかしたら自分が住んでいる地元かもしれなし、これまで縁がないと思っていた土地かもしれない。今やインターネットで検索すればいろいろ情報が得られるが、電話帳を頼りに自分のルーツを探し出し、その土地に出掛けてみるのもなかなか面白そうだ。
●森岡浩(もりおか ひろし)
1961年高知県生まれ。姓氏研究家。早稲田大学政経学部卒業。学生時代から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野から多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない実証的研究を続けている。主な著書に『知っておきたい日本の名字』(エイ出版社)、『全国名字大辞典』(東京堂出版)、『なんでもわかる日本人の名字』(朝日文庫)、『あなたの知らない名字の秘密』シリーズ(洋泉社歴史新書)など多数。近刊に「名字でわかる あなたのルーツ」(小学館/2017年7月6日発売)。
公式ウェブサイト:http://office-morioka.com/
(参考:『知っておきたい日本の名字』)
(K)
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