京都の美仏。
京都 傑作美仏大全
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2017.09.27
運慶と快慶。人気・実力とも日本でもっとも著名な仏師の二人は、同じ慶派で、同じ時代に活躍したからこそ、何かと比較されがちだ。生きているような躍動感ある運慶の仏像が好きという人もいれば、まるでそこに仏様がいるかのような正統派の快慶の仏像が好きという人もいる。
そこで、東京藝術大学教授にして彫刻家(せんとくんの作者)でもある籔内佐斗司さんをはじめ、『見仏記』シリーズでお馴染みのみうらじゅんさん、NHK『趣味Do 籔内佐斗司流 仏像拝観手引』にも出演した“シノラー”こと篠原ともえさんに、ご自身が思う運慶・快慶像や魅力を教えてもらった。私見も多分に入っているので、そのあたりもぜひ楽しんでもらたい。
彫刻家の籔内佐斗司さんは、ブランドという観点から二人の天才を見るのも一興かもしれないと言う。
「奈良仏師を統率していた運慶は、多くの逸材を抱える大工房の棟梁であり、その矜持を持って大規模な公的事業を請け負った。一方、自ら『巧匠』を名乗るほど早くから卓越した技量を発揮していた快慶は、東大寺の復興を終えると運慶工房を離れ、彼の小規模な工房で、寺院から発注される三尺像を中心に制作していたと想像される。
快慶の初期の作例の中には、世界的に見ても最高レベルに到達してるものがあるが、中期以降は極めて凡庸な作品が増えていく。その点運慶は一貫したレベルで作品を制作し続けていて、完成度にぶれがない。
俗な比喩ではあるが、世界的な大企業の自動車メーカーが、豊富な人材を活かしながら、常に安定して水準以上の自動車を量産する一方、才能あるベンチャー企業の社長が、若い頃には手造りのみごとなスポーツカーを生み出していたが、年を重ねるにつれて製作から離れ、開発力に劣る現場はかつてのデザインを踏襲するのみの惰性で造り続けて衰退する。運慶と快慶の彫刻家個人の評価は別として、それぞれのブランドについてはこのように喩えることができると思う」
二人の天才は仏像界の流れも変えた。そんな見方をするのは、興福寺中金堂再建記念特別展「運慶」のスペシャルサポーターも務める、みうらじゅんさん。
「運慶の父・康慶は鎌倉でこれまでの仏法(経典)に則った仏像彫刻ではなく、武家社会の求める荒ぶる仏像が次に来ることを目の当たりにした。その路線を開花させたのが運慶ですね。仏師というよりアーティストの才能を父から受け継いだ。一方、康慶が守ってきた仏像(仏法に則ったもの)を正しく学んだのが快慶じゃないですかね。
二人を比較すると、運慶は彫刻家で快慶は仏師という感じがします。ニューウェーブで行くか、保守的な仏像(クライアントが期待するもの)を造るかの違いです。だからいってみれば“ルネサンス”ですね。もう本当に仏像ルネサンスが、まさしく起こったのだと思います。中世ヨーロッパでも、キリスト教の教えを長きに渡り守ってきた絵画や彫刻の世界が、やがてルネサンス美術へと変貌を遂げました。リアルで人間味あふれるミケランジェロのダヴィデ像のような作品が次々と生まれたのです。日本の仏像の場合は、鎌倉時代の慶派だったんじゃないでしょうか」
タレント、女優業から、デザイナー、音楽プロデューサーと多岐に渡る活動をしている篠原ともえさんは、女性らしい豊かな感受性で運慶と快慶の仏像から受け取る印象を語ってくれた。
「運慶作でいうと、高野山金剛峯寺の八大童子像は色々な装飾を身につけていて、それが絶妙なバランスを生んでいるように思います。胸のリボンのような装飾品が1つついていることで、急に愛らしくなるというか。髪型もくるんとしていたり、お団子結びのようだったり、10代のときに自分の好みの髪型にも通じるものがあるし、とてもチャーミングだと思います。そういうデザイン力から、愛されるべくして生まれた仏像への仏師の愛を感じます。
快慶といえば、浄土寺の阿弥陀三尊像もとても感動しました。阿弥陀さまが祀られているお堂の中で、夕方になると西側から日が射して、ちょうど三尊像の背中に光が入って、まるで極楽浄土で仏さまに拝観しているような演出を体験することができるんです。快慶は人々を助けたいという思いが根本にあって、もしかしたら、ご自身も信仰の中で助けられたことがあったのかもしれないと思いますね。感謝の気持ちが根本にあって、それを極める中で、きっとこういうふうに拝む対象を仏像としてお造りになって、結果的に人を助けることになったんじゃないかなと思いました」
人物像の解釈や魅力について、三者三様の見解は実に面白い。「運慶と快慶については、とても興味深い時代背景や人間模様の逸話が残されていてる。いつかこの二人を主人公にした連続ドラマか映画ができないものかと期待している」と藪内さんが語るように、仏像、時代、人物、いろいろな部分が人の心の刺さるのが約800年を経た現代でも運慶と快慶が仏像界のおいて燦然と輝く所以だろう。
(出典:『究極の美仏 運慶と快慶』)
(K)
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