本づくりの原点がここに。
しずけさとユーモアを 下町のちいさな出版社 センジュ出版
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2017.12.07
急激に進む少子化の中、日本の人口は減り続け、2050年には1億人を割り込んでしまうと予測されている。そして、2025年には5人に1人が75歳以上という超高齢化社会が到来。経済では人手不足が加速し、AIやロボットがさらに社会進出を果たし、約半数の仕事が消滅してしまうと予想する識者もいる。「これから先、日本は一体どうなっていくの?」と不安を募らせている人も多くいるだろう。
しかしだ。ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英氏は、「仮にAIがどんなに優秀になっても、人間の仕事は決して無くならない」と話す。
自身の名を冠した「益川塾」を主宰し、若者の人材育成にも積極的に取り組む益川先生は、日本の科学技術の行く末に対し、深い関心を寄せている。科学技術立国のためには何が必要なのか。コンピューターやAIの進化は、科学研究をどう変えるのか。科学研究の醍醐味を「夢とロマン」と語る益川先生に話をうかがった。
現在、科学全般で大きなトピックスになっているのはAI(人工知能)だと思います。将来的にはロボットが社会に進出し、人間の仕事を奪うのではないかという予測もありますが
益川(敬称略):間違いなく、近い将来、AI(※)が人間の仕事の多くを代替わりしてくれる日がくるでしょうね。科学者の仕事をAIがサポートする時代も訪れるでしょう。思えば、1960年頃から、将来的に科学技術が人間の仕事を置き換えるといわれてきました。スマートフォンでできることも増えましたし、現在進行形で置き換わっている部分がたくさんあります。
※1)人工知能を指す「artificial intelligence」の略。コンピューター上などで人間に比肩する知能を実現させる試みや、そのために開発された基礎技術のこと。
AIが人間に肩を並べる知能を身につけた場合、科学研究のあり方はどう変わるのでしょうか
益川:仮にAIがどんなに優秀になっても、人間の仕事は決して無くならないと僕は考えています。AIのビッグデータが発展し、コンピューターの処理速度が上がったとしたら、むしろそれらの進化を味方につけて、人間はどんどん複雑な事象を取り扱えるようになると思うのです。
何より、AIが絶対に上回ることができない人間の強みは、圧倒的な知的好奇心です。AIが家事や仕事まであらゆる作業ができるようになったとしても、人間が何もしなくなるとは到底考えられない。そのぶん、生まれた時間を有益に使って、新しいことを考えようとするのではないでしょうか。
AIやロボットが人間にとって、明るい未来をもたらしてくれるのでしょうか
益川:こればかりは、使う人間側の問題だと思いますよ。科学技術は便利なものですし、我々もその恩恵にあずかっています。だからこそ、いざAIが実用化されたときには、使う側がしっかりしないといけない。AIが発達したことで人々がかえって不幸になる未来など、あってはいけないと思います。
未来をよいものにするために、人間がすべきことは何でしょうか
益川:僕は戦争には絶対に反対だけれど、GPSのように戦争のために生み出された軍事技術のなかで、今、人の役に立っているものもあるのです。つまり、科学は中性的なものであり、使う人によって悪にも善にもなる諸刃の剣であるということですね。
21世紀は、科学技術が戦争に悪用されることがあってはなりません。どういう使われ方をするのかを監視し、世界規模で議論やコミュニケーションができる環境を整備していくべきだと思います。
益川:僕は科学研究の醍醐味は「夢とロマン」だといつも言っています。研究は苦しいときもありますが、いい論文が書けたり、大きな発見をしたときの達成感は、何ものにも替えがたいものです。こうした体験の繰り返しが、科学を進化させてきた原動力だと思います。
僕自身が研究を続けてこられたのも、物理学への憧れとともに、夢とロマンを追い続けてきたためでした。AIがどんなに進化しても、人間の飽くなき好奇心が続く限り、科学研究は無くならないと思いますよ。未来を切り開く若者に期待しています。
何より、「未来を良くするには、夢とロマンをみんなが持つ世の中にすること」を話す益川先生。そんな益川先生が掲げる「未来への7か条 」を最後に紹介しよう。
< 未来への7か条 >
1:現状に満足せず、常に挑戦的な気持ちを持つ
2:科学者に対し、充分な研究環境
3:科学の発見は本筋から外れた脇道からも生まれる
4:人間の知的好奇心はAIに勝る
5:科学技術がどう使われるのか、監視する
6:純粋な若い芽が育つ環境を作る
7:「夢とロマン」を真摯に追い求めるべし
●益川敏英
理論物理学者。専門は素粒子理論。名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構長・特別教授、京都大学名誉教授、京都産業大学益川塾教授・塾頭。愛知県名古屋市出身。
東京オリンピックが開催される2020年頃には、患者の体への負担が少なくなる手術支援ロボットに保険が適用されるかもしれない。そして20年後には、会社に行かずとも仕事ができるリモートワークが普及しているかもしれない。さらに30年後には、コンピューターが人間の脳を超え、煩雑な仕事や家庭から解放されるかもしれない。未来は憂うばかりでなく、より良い方向に進んでいくと予測することも可能だ。
(出典:『驚愕! 日本の未来年表』)
(Y)
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