ジブリファン必見!
山本二三百景
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2018.02.18
室町幕府崩壊の過程は、そのまま、鎌倉時代から続く武家社会が変化し、戦国時代へ移った時期と重なる。関東に起こり、西国も席巻した坂東武者たちの戦い方にも大きな変革が起こった。特に彼らの拠点である城は大きく変わり、戦闘方法にも織田信長、豊臣秀吉らの時代へつながる転換が起こっていたのだ。今回は「城」と「足軽」にスポットを当て、どのようにして戦国武者が生まれて行ったのかを紹介しよう。
現在、一般的な会話や文章の中で「城」といえば、やはり、姫路城や大坂城のような天守のそびえる巨大建造物を考える。だが、それらの多くは統一が果たされ、戦がなくなった時代のもので戦国乱世の城ではない。そもそも、武士の文化というのは関東を中心に成り立ったもの。このため、開墾した平野に荘園の統治と居住を兼ねた館を置いて拠点とするのが、初期の武士のスタイルだった。戦は館を出て、平原で行うものだったのだ。
しかし、戦乱が絶えずに戦国化していくと、日常居住する館だけでなく、近隣の山に戦闘時に使う詰城を築く併用例が多く見られるようになる。
春日山城
山内上杉の分家である越後守護の上杉氏が居館に付属する詰城(戦闘時の城)として築いたのが最初。後に上杉の家宰であった長尾氏の拠点となり、長尾景虎(上杉謙信)の居城となった。
この時代は、武士を育んだ平地が大きく変化した時期でもある。南北朝から室町幕府が成立した初期には、足利尊氏や敵側の新田義貞、北畠顕家といった武将が、鎌倉から京、さらに遠い地域へ、何度も大行軍を行っている。
これには、関東平野や濃尾平野といった平原の移動が関わっている。足利尊氏の時代には、そこに移動の障害は少なかった。だが、戦乱が続く中、守りにくい平原にも軍事拠点が必要となり、丘や小山を利用した平山城が築かれるようになる。突破するには大きな労力を費やす必要があり、行軍速度が遅くなってしまう。
こうして、戦国化が進むにつれ、国土は城まみれになる。数え方にもよるが、砦のようなものまで含めると、全国には約5万もの城が存在した。これは現在のコンビニエンスストアに匹敵する数で、まさに城大国だったのだ。
関東平野は広い低地の中を多くの河川が横切り、その河が運んだ堆積物で成り立っている。このため、沼地などの湿地帯が多かった。そこへ、平安時代に京から下向した貴族らが中心となって開墾を進める。荘園を形成した後は、彼らが土着して武士となった。平地に現れた武士なので、戦闘方法も騎馬で駆け、矢を射かけるという野戦が中心だった。
室町時代になり、南北朝の争いや観応の擾乱など、関東圏内での戦が増えると、自領を防衛する必要性も高くなる。これに対応するには、ある程度、恒久的な防御施設、「城」が必要になる。だが、関東平野には、山城を築くに適した地は少ない。
そこで、彼らが利用したのは、関東平野に多く流れる河川と、その周囲に広がる湿地帯だった。利根川や荒川の流域は、沼地が多く広がり、これが自然の堀として機能した。後年、小田原攻めに際して、石田三成が水攻めを試みた忍城も、沼に囲まれたこの地域の城。水を活かした築城は関東流のスタイルだったのだ。
古河城
渡良瀬川に面し、利根川に近い地に築かれた古河城は、鎌倉公方・足利成氏が移った地。以来、古河公方として上杉勢と利根川をはさんで争った。イメージCGは近世城郭となった後のものだが、湿地帯を利用した城であることがわかる。
太田道灌の使えた扇谷上杉家は当時、関東管領であった山内上杉家に押され、軍を容易に集めるほどの権威がなかった。そこで彼は下級武士や農民から、足軽部隊を組織したようだ。軍事における情報なので詳しい記録は残っていないのだが、道灌はこれらの人々を訓練し、歩兵部隊として運用したとされる。まだ、一騎打ちなど騎兵の伝統的戦法が色濃く残る関東で、これは効果的だった。歩兵の利点を活かし、芦原などに兵を隠し、おびき出した騎兵に対し、弓や槍を用いて集団で襲い掛かったわけだ。
享徳の乱の後半に長尾景春が山内上杉家に対して起こした乱では、初戦、長尾景春の騎馬隊が五十子の上杉陣を急襲し、大きな戦果を上げた。しかし、景春の相手として出動した太田道灌は、足軽を組織的に使う戦法で各地を鎮圧。景春の乱は収束に向かう。
こうした新戦法の確立は、強い権威を持たない新興勢力の勃興をも助けることとなる。その先にあるのが、よく知られる鉄砲足軽などの組織化された部隊であり、これが時代を変えていくことになるのだ。
●小和田 泰経(監修)
1972年東京都生まれ。歴史研究家、静岡英和学院大学講師。NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』に資料提供として参加。TV出演も多数。
(出典:『図解 室町幕府崩壊』、監修:小和田 泰経、CGイラスト:成瀬 京司、イラスト:あさい らんこ / カワチ・レン)
(ヤマダタケシ)
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