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寿司 Complete
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2018.03.22
江戸前寿司において穴子は代表格とも言える。鰻のような脂っこさがなく、やわらかな身、甘辛いツメの味も相まって、幼い子どもから年配層まで、広く愛されている。東京下町に穴子で名をはせる銘店があるのを皆さんはご存知だろうか?今回は銘店の店主が穴子への想いを熱く語ってくれたので早速紹介してみよう。
穴子といえば乃池、乃池といえば穴子寿司。今では代名詞のように言われているが、「どこの寿司屋でもやってるようなことをやってるだけ。本当は普通の寿司屋なんだけどね」と店主の野池幸三さんは語る。その言葉通り、ネタケースには鮪や小肌をはじめ、江戸前寿司ならではのネタが並んでいる。
『すし乃池』が店を構えるのは、谷中・根津・千駄木、通称「谷根千」として親しまれる東京の下町エリア。近年は今時のカフェなども増え、散策を楽しむ若い人の姿も多く見られるが、70軒以上の神社・仏閣がある昔からの寺町だ。
店ができた昭和40年代は、参拝や墓参りの際に立ち寄っては寿司をつまみ、留守番をしている家族のために寿司折りを持ち帰る客が多かったという。「自分だけ美味いもん食ってちゃ悪いからってね。でも鮪やなんかは生だから、折詰には向かない。傷んじゃうからね。だから穴子だとか干瓢巻き、玉子なんかを折に詰めたんだ」おそらく土産を受け取った人の口コミであろう。いつしか乃池の穴子寿司が美味しいと評判になり、「そのうち穴子ばっかりが有名になっちゃった」とのことである。
名代穴子ずし(2,500円)
穴子が評判になると、店主は「喜んでもらえるなら」と穴子だけの8貫盛り「名代穴子ずし」や、「穴子丼」を出すようになる。手土産には自家製の穴子の佃煮を芯にし、きゅうりや薄焼き玉子などと巻いた「太巻き穴子入り」も人気だ。
穴子丼(2,500円)
太巻き穴子入り(1,600円)
穴子は専門の仲卸から仕入れ、毎朝、20kg前後の穴子を片っ端からどんどん捌いていく。鰻同様に、関東では背開きに、関西では腹開きにするのが一般的だ。「京都や奈良はお公家さんの街でしょ。対して江戸は武士の街だったからね。腹から切ることは切腹に繋がるって嫌ったというわけ」と野池氏は語る。
頭を落とし、骨や内臓を取り除いた穴子は、強火でふっくらと煮る。調味料は酒、味醂、砂糖、醤油といたってシンプルだ。
この穴子の煮汁がツメになる。「うちのツメは基本的にはこの煮汁を漉して煮詰めただけ。味が足りないかなと思ったらちょっと調節はするけどね。100%純粋な穴子のエッセンスだよ」開店より継ぎ足しのツメは、思いのほかあっさりとしていて上品な甘さ。赤酢と塩のみで作るという、乃池の昔ながらのシャリにもよく合う。なるほど、これならひとりで8貫ぺろりと食べられるわけだ。
いかがだろうか?下町の名店の穴子寿司は、在りし日の日本の家族の光景を思い出させる。肩肘張らずに、身近な人と何度でも訪れたい、そう思わせてくれる店である。是非一度足を運んでみてほしい。
【DATA】
●すし乃池
住所:東京都台東区谷中3-2-3
電話番号:03-3821-3922
営業時間:11:30〜14:00、16:30〜22:00、日・祝日11:30〜20:00
定休日:水曜
公式サイト:http://www.sushi-noike.com/
●野池幸三
すし乃池店主
鮮やかな包丁捌き、テンポの良い喋り口調は年齢を感じさせない。街の名士とあって多忙で、毎日のように原付に乗って会合などに出かけていく。
(出典:『寿司大全 〜THE SUSHI〜』)
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