Lightning 2021年5月号 Vol.325
2018.08.05
起きたそばからもう帰りたい……。「私たちはどうして働かなければいけないの?」
どうして私たちは働かなければならいないのでしょうか? 国民の三大義務のひとつに、勤労の義務があるからでしょうか? できることなら働かずに遊んで暮らせたらどんなに楽だろう……とも思うし、単に「働くのは当然」で片付けてしまっては、なんだかとても窮屈な感じがします。
働くとは何か? その真理を知る手がかりが「哲学」にあります。
哲学というと難しいイメージを持っているかもしれませんが、哲学の思考は私たちの生活にとても役に立つものです。Eテレの『世界の哲学者に人生相談』でおなじみの山口大学准教授・哲学者である小川仁志さんによると、哲学ほど物事を深く考えるうえで役立つ「道具」はないと言います。
どうして働かなければならないの?
それでは、実際に小川さんに哲学を使って「どうして働かなくてはならないのか?」の答えを導き出してもらいましょう。
Q.どうして働かなければならないのでしょうか?
A.秩序の保たれた社会では、労働こそが所有の根拠になるからです。
<解説>
私たちは働くことで収入を得ることができ、さらに社会での立場も作ることができます。働くことで、個人が社会とつながることができますが、働かずに遊ぶことによって社会とつながることができるのも事実です。ここでは近世イングランドの哲学者・ロックの思想から、「所有」をキーワードにその答えを導き出していきましょう。
人々は家や土地を所有しています。たとえ誰も住んでいない土地であっても、そこには所有者が存在しているものです。動物たちは「この土地は誰のものか?」とは意識しないのですが、私たち人間は「ここは誰かのものだ」と考えて暮らしています。ロックは、その根拠について考えたのです。
世界にはもともと役に立つものと、そのままでは役に立たないものがありますが、それが「所有」について考えるポイントになります。たとえば、石は重りなどに使えるのでそのままでも役に立ちます。使い終わったら別の人が使うことができ、もともと役に立つものだから誰のものでもありません。
しかし、もともと役に立たなかった荒地を耕して畑にしたら、耕した人によって役に立つものになります。たとえその畑を使っていなくても、耕した人のものであるべきというのがロックの主張です。つまり、荒地を耕すことは「働く」ことであり、労働こそが所有の根拠となるのです。この世界のモノの多くは、誰かが働くことで作り変えられ、その所有権を認めることで社会秩序が生まれ、その秩序を守るために社会が作られた、と説いたのです。
私たちは「自分で購入したものは自分のものだ」と考えるのが普通です。購入するためのお金は自分のものであり、そのお金は働いて得ています。すなわち、ロックの言う通り、私たちは働くことで所有していることがわかります。自然にある誰のものでもない世界で、働いて自分のものを得ることが、現代の社会秩序の基本となっているのです。
<引用した哲学>
ロックの「統治二論」
1690年にロックが執筆した二編の論文で構成された政治哲学書。王権神授説に対する反論と、政治権力の起源が社会契約にあることについて述べている。アメリカの独立革命など実際の政治にも影響を与えた。
考え続けることで、自分自身の人生も好転してくる
いかがでしたか? ロックの思想に納得した人もいれば、なんか違うと思った人もいるでしょう。今回はロックの「統治二論」を使って小川さんは答えを導き出しましたが、他の哲学者の考えを使ってみると、また違った答えが導き出されるます。「なぜ働らかなければならないのか?」。あまりに普遍的な疑問だからこそ、いろいろな考え方を取り入れて、考え続けることで、自分自身の生き方も良い方向に変わってくるのはないでしょうか。
(出典:『もう一度学びたい 哲学』)
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