フィルムで撮りたい!
FILM CAMERA STYLE vol.3
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2018.11.12
デジタルカメラ全盛の今の時代でも、フィルムカメラでしか撮り得ない情景がある。写真家・河野鉄平のフィルムカメラとの旅を追った。
「フィルムでの旅は、いつも情緒が生まれるような気がして好きだ。旅には大抵デジタルカメラも持参するが、旅に出る前にフィルム主体でいくか、デジタル主体でいくかを決める。たとえば、ヨーロッパはデジタルのシャープな描写が似合う場所、アジアは柔らかい質感のネガフィルムが似合う場所と勝手に思っている。そんなフィーリングも気まぐれに変わるものだが、その時々、向かう場所によって頭のなかにイメージが湧く。そのイメージに逆らわず、カメラを持って写真を撮る。
フィルムの旅は情緒が生まれるような気がするのは、その場で撮ったものがすぐに見られないからかもしれない。フィルムで撮る楽しさは、後日、現像から上がってきた写真を見返す行為の中にもある。記憶を反芻しながら写真をゆっくり眺めるのだ。このタイムラグは、昔は当たり前だったが、今では新鮮。デジタルは撮ってすぐ見られるからちょっと窮屈な感じがする。仕事なら便利だけど、旅の写真は少し間が空くくらいがちょうどいい。プリントして仕上げる際も、この″時間の空間”がゆったり写り込むような気がする。
ちなみに、私が好んで使うのはネガカラーだ。暗室を使ってプリントを自作する。本番プリントを作るのは、こだわりすぎたりして億劫になることも多いが、コンタクトシート(*1)をつくるのは楽しい。初めてそこで撮ったものを確認できるから。ウキウキしながらシートをつくる。カメラは主に中判カメラを使う。中判カメラは重くてかさばるけれど、ファインダーからの見え方が広くて、最初は眺めているだけで、世界が違って見えて感動した。シャッターを押すと力強くガッシャンと爽快だ。
これまでさまざまな場所に足を運んだけれど、これからもフィルムがなくならずに存続し続ける限り、旅先にはフィルムを持っていく。フィルムカメラは、旅の記憶を焼き付けても、デジタルのようにはその場ですぐに記憶が重なっていかない。確かに記録しているが、シャッターが下りた瞬間に一旦消える。それは幻だったかのように消えて、しかし数日後、現像して蘇る。情景が幻になるのも、なにかいい。しかし、その場で出会った空気も音も、光も、永遠にフィルムという確かなものに残されている。その″確かさ”は写真を撮っていてなにより強く印象に残るものだ。撮っているという実感や厚みはフィルムカメラのほうがはるかに大きい」――写真家・河野鉄平
編集部注(*1) コンタクトシートとは、サムネイル画像を一覧に表示したもの。
フィリピンのセブ島、夕刻の風景。セブは島が大きく、バスで奥に入ると静かで雄大な海辺の町になる。ここではみな思い思いに時間を過ごす。ペンタックス67II smcペンタックス75mmF2.8AL コダックポートラ400
セブ島、庭先にいたニワトリ。こんなふうに繋がれている姿を何度か見かけた。日の丸構図でパシャリ。富士フイルムGF670プロフェッショナル フジカラーPRO160NS
ワゴン付きの自転車に颯爽と追い抜かれる。こちらを見ながら笑う少年たちにシャッターを切る。南国の空気感が気持ちいい。セブ島にて。ペンタックス67II smcペンタックス75mmF2.8AL フジカラーPRO400H
アフガニスタン北東部の町ファイザバードで出会った少年。こうしたポートレートは一期一会の出会いが魅力。今ではなかなか訪れることのできない場所だけに懐かしさが募る。ペンタックス67II smcペンタックス105mmF2.4 アグファオプティマ400
バリ島近くのレンボンガン島の風景。みんなで海に浸かりながら、陽の沈む様子を眺める。海面のたゆたう様子が印象的だった。ペンタックス67II smcペンタックス105mmF2.4 コダックポートラ400
主に使っているのは右のペンタックス67II。レンズは中望遠の105mmF2.を装着することがほとんど。寄りながら迫力のある描写を目指すときは75mmF2.8ALを使う。軽めの装備で気軽にスナップしたいときには左の富士フィルムGF670プロフェッショナルを持ち出す。蛇腹式で、折りたたむとコンパクトな薄型になるのがいい。
(トップ写真)
学校の制服を着て、何か書き物をしていた女の子。宿題をしていたのかな? カメラを向けるとじっと見つめた。パキスタン北部の村パスーにて。ペンタックス67II smcペンタックス105mmF2.4 アグファオプティマ400
●河野鉄平
1976年東京生まれ。写真家テラウチマサト氏に師事後、2003年に独立。著書多数。個展も多数開催。Profoto公認トレーナー。
(出典:『FILM CAMERA STYLE vol.3』)
(編集 M)
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¥1,760(税込)
(2018.09.26発売)
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