相続法改正を完全網羅!
大切な身内が亡くなったあとの手続きの本 2019年改訂版
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2019.02.06
高齢化社会が進む中、今回の相続法改正では残された配偶者の生活を守るための法整備が行われた。これまでは故人の配偶者が住む家を失うケースもあったが、「居住権」の新設や遺産分割に関する見直しにより、そうした理不尽なトラブルを避けられるようになった。老後を安心して暮らすために、しっかりと頭に入れておきたい。
これまで、住んでいる家を配偶者が故人から遺言で譲与(遺贈)されたり、生前贈与で受け取ったりしていても、遺産分割のときにはそれらを遺産に加え、改めて相続人たちで分配することになっていた。これが改正によって見直され、婚姻期間が20年以上ある夫婦の間で遺贈や生前贈与をした場合には、分割する遺産には加算されないことになった。
さらに今回の改正では、残された人の生活資金についても配慮がなされている。金融機関は持ち主が亡くなったことを届けられた時点で故人の口座を凍結するため、相続人は預金を引き出せず、自身の生活費や故人の葬儀費用、借金返済などに困ることがあった。それが遺産分割前でも一定の金額内であれば故人の預貯金からの仮払いが可能になり、相続人が生活に困窮する事態を避けられるようになっている。
故人の住んでいた家が遺産の対象となった場合にも、一緒に暮らしていた配偶者を保護する方策が取られている。そのひとつが「配偶者短期居住権」だ。遺産分割協議中は家の権利が誰のものでもなく、もめごとが起こることも少なくない。故人の配偶者が相続人の実母なら何事もなく住めることが多いが、これはあくまでも当事者同士の合理的意思解釈によるもの。故人が配偶者以外の第三者に家を遺贈した場合には、住み慣れた自宅から出ていかなければならない。それが配偶者短期居住権の新設により、配偶者は遺産分割協議が終わるまでは無条件で家に住むことができるようになった。
とはいえ、前述のように第三者に家の所有権が渡ったり、配偶者が相続放棄したりした場合には、家の持ち主になった人は配偶者にいつでも配偶者短期居住権の消滅を申し入れることができる。ただし、配偶者は申し入れ日から6カ月を過ぎるまでは変わらず家に住むことが可能。その間に次の生活のめどを立てられるように配慮されている。
もうひとつ、不動産の「所有権」をめぐる相続問題を解消し、配偶者が長く故人の家に住めるようにする「配偶者居住権(長期居住権)」も新設された。
家という分けられないものを相続する場合、これまでは家をもらうか、出て行くかの2択しかなく、トラブルの火種になりがちだった。例えば評価額1000万円の家と1000万円の現金があり、故人と再婚した配偶者(後妻)と2人の子が相続人であったとしよう。基本分配に基づき、後妻が1/2にあたる家を、2人の子が合わせて1/2となる現金を分けることになった場合、後妻には家の相続税が負担となり、子には代々受け継がれてきた家を守れなくなるという問題が生じる。かといって子が家を引き継ぐと、今度は後妻の住む場所がなくなってしまう。
そこで、配偶者と他の相続人、前述のケースなら後妻と2人の子が、家の「居住権」と「所有権」を分けて持つことを可能にしたのが配偶者居住権だ。これにより、配偶者は遺言か遺産分割で居住権さえ得ていれば、長期あるいは生涯にわたって家に住み続けることが可能に。子は所有権を持つことで、配偶者が家を売ったり居住権を第三者に譲ったりする事態を回避し、家を守ることができるようになった。
なお、居住権の価値は所有権より低く計算される見込み。例のように居住権が家の価値の半分以下となる200万円と評価された場合、後妻は現金800万円を引き継げるため、相続税の支払いや今後の生活費にあてることも可能だ。
婚姻期間20年以上の夫婦への優遇策は2019年7月1日、配偶者短期居住権と配偶者居住権は2020年4月1日と、段階的に施行が開始される。長い老後を過ごす上で、家はなくてはならないもの。相続を争いなくスムーズに乗り切るためにも、今から備えは万全にしておきたいものだ。
(出典:『大切な身内が亡くなったあとの手続きの本 2019年改訂版』)
(エイサイト編集部・ヨシダ)
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