マニュアル原本完全復刻。
誉発動機 取扱説明書 完全復刻版
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2019.03.01
※写真は、原本。この本を元に、復刻が行われた
『栄発動機』と言われて何のことか分かる人は、かなりの飛行機マニアだろう。『栄発動機』とは零戦などに搭載されていた空冷星形14気筒エンジンの名称である。76年前に作られた、このエンジンの整備マニュアルが復刻される。
74年前の日本敗戦後、GHQが進駐する前に、大半の軍事機密の書類は破棄、焼却されたので、この手の資料はほとんど現像しておらず、本書も表には出ていなかったもの。また戦時中も開発当初はの零戦は第一級の国家機密の最新兵器であったし、当然のことながら一般人がマニュアルを見ることなんてできなかった。
(栄発動機のバルブクリアランスの説明を読める時が来るとは!)
つまりは、今回エイ出版社から3月29日に発行される『栄発動機二〇型取扱説明書 完全復刻版』は76年の年月を経て初めて一般の人の目に触れる資料ということになる。価格は8000円(税別)ということだが、本当に欲しい人にとっては値段の問題ではない貴重な資料だといえるだろう。
世間の99%の人にとっては零戦のマニュアルなんて「なぜ、そんなものが欲しいの?」という本かもしれない。
なぜ欲しいのかを少し説明してみよう。
まず、星形エンジンというものが、我々の身の回りにはもうほとんどない。空気で冷やしつつ大馬力を得るためにそういう形になったのだが、第二次世界大戦が終わってからは水冷エンジンが一般化されたし、ジェットエンジンもできたしで、ハイチューンの空冷星形レシプロエンジンというもの自体が完全にロストテクノロジーになってしまっている。
そして、前述した通り、敗戦国である日本の資料はほとんどが、終戦時に米軍の手に渡らないように焼却されてしまっている。
しかし、零戦とそのエンジンには日本の威信……どこか、日本の存亡とすべての日本人の命をかけて戦うために、開発された必死の技術が秘められていたのだ。
飛行機同士の空中戦では、たとえば1km/hでもスピードが出た方が、1mでも高く上昇できた方が勝利し、生き残る可能性が高くなる。つまり、空冷とはいえ、超ハイチューンエンジンだったのだ。
(現存する零戦の貴重な3機編隊飛行。手前が唯一栄発動機を積んだ中島第5357号)
本書をひもとくと、エンジンを始動しなかった日にもプロペラを手で回して固着しないようにせよとか、1〜2週間ぶりに始動する時は全シリンダー内の注油して手回しすべしとか、2週間以上格納した場合には、洗浄燃料で1000回転付近で約30分間地上運転を行うべしとか、気化器浮子室内(キャブレターのフロート室内ってことでしょうね)に潤滑油を入れろとか、他にもたくさんの指示が列記されている。
これだけ見ても、いかに栄発動機が精密な機械だったのかがよく分かる。
これまで、幾多の映画や小説、コミックなどに描かれてきたゼロ戦だが、それらの整備のシーンもこの本があればもっとリアルに作れたのではないだろうか? なにしろ、どういう整備をすればいいのか、分解の時にはどういう順番で部品を取外し、どこにどんなパッキンを入れるのか、交換頻度がどのぐらいなのか、すべて書かれているのだ。
まったく見ているだけでまったく飽きない。
プラモデルやラジコン飛行機を作る人にとっても、空前絶後の資料だろう。また、零戦パイロットだった人、整備士だった人、そのご家族にとっても当時を偲ぶよすがになるに違いない。
栄発動機について少し説明しよう。
現在、飛行可能な零戦は数機ある。ただ、多くの機体は現在でも入手が比較的容易な(といっても希少だが)P&Wの R-1830ツインワスプなど米軍機のエンジンを積んでいる。しかし、中島第5357号と呼ばれる1機だけが、本来搭載されていた栄発動機を搭載して飛行可能だ。尾翼に61-120とマーキングされたこの機体は多くのプラモデルなどの資料になったから、見た事がある人が多いと思う。
つまりは、唯一、カリフォルニア州チノにある『プレーンズ・オブ・フェイム(POF)航空博物館』にあるこの中島第5357号のための取扱説明書ともいえるだろう。といっても、中島第5357号が搭載しているのは栄三一甲型で、本書が説明している栄発動機二〇〜二二型とは多少違うのだが。
(中島第5357号が搭載している栄三一甲型)
本書が解説している栄発動機二〇〜二二型は、零戦二二型や、三二型、五二型に積まれたようだ。また、栄発動機自体は隼や、九九式双発軽爆撃機、月光などにも搭載された。二二型は二一型の逆転仕様で、九九式双発軽爆撃機、月光など双発機の場合に使われた。
本書は、原本を高解像度スキャンし、原本と同じサイズで上製本として再現している。また、折り込まれた多色刷りを含む図面32枚をこれも高解像度でスキャンし別冊子の図面集として収録。さらに専門家による解説冊子、アメリカに唯一現存する零戦五二型と、それが搭載する栄三一甲型を詳細にレポートしたオリジナル映像(50分)もDVDとして収録。3誌とDVDをハードケースに収めた豪華仕様本となっている。
けっして数多く売れる本でないので、増刷される可能性は極めて少ない。ぜひ予約し、手に入れておいていただきたい。
(村上タクタ)
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