色で選ぶ万年筆インク!
INK 万年筆インクを楽しむ本
© 1999-2021 Ei-Publishing Co.,Ltd.
2019.03.20
整然と枡目がならぶ原稿用紙。小中学生の頃は、作文を書く際によくお世話になったものですが、大人になると、とんとご無沙汰に。原稿用紙を目にすると、過去に苦しんだ『作文』の宿題を思い出してしまうという人も少なくはないようです。
しかし、そんな気持ちはいったん横において、新たな気持ちで原稿用紙を見てみると、『筆記用紙』としての魅力が浮き上がってくると、文具ライター・小日向 京さんは力説します。言われてみると確かに、凝ったデザインは大人が使ってこそ映えるように思えてきます。万年筆のすべりがよいのも◎
小日向さんに、大人のための原稿用紙について語ってもらいました。
「小学生のときに、読書感想文など作文の宿題でよく使った原稿用紙。ノートよりも薄手の紙で、半分に折り、鉛筆でせっせと枡目を埋めるようにして書いたものです。その当時は『枡目を文字で埋める』『定められた枚数で書く』ということに緊張感もあって、真っ白な原稿用紙を目の前にすると、書き出しがどうしても進まなかったり、早く1枚を終えて枚数を稼ぎたいがために次の行へ到達したところですぐ改行を入れてみたりと、あれこれ苦しみながらも工夫を凝らしてみたものでした。
あの苦痛の記憶から、原稿用紙はどうも苦手で……という人はいます。しかし、今あらためてその枡目や半分に折る部分を見ると、なんと愛らしい『模様』なのでしょう。洋服には方眼パターンやタータン模様があるのだから、原稿用紙模様のシャツがあっても良いのではないか。そう思えてしまうほど魅力にあふれています。
原稿用紙は、文字数を数えるために作られました。原稿用紙の歴史には諸説ありますが、明治時代から政府や企業で使われた『罫紙』がその原型となっています。さらに辿ると、罫紙のデザインは中国の木版刷りの古文書に見られます。縦罫のみが引かれた罫紙に文字を区切る横罫が加えられ、書き手やその文書を受け取る側にとっては文章量を把握しやく、またさらにその文章を活版印刷するさいには、植字工が文字配分を定めやすいという利点がありました。
文章書きも印刷もコンピューター化された現代では一見、原稿用紙はもはや無用の紙のようにも思えます。しかし、過去への懐かしさや文豪への憧れ、また前述したような罫線の愛らしさから、『用紙デザインのひとつ』として原稿用紙を好む人々が今も多く存在します。
そもそもキー入力が一般的となった現代でも、原稿用紙は大変役立ちます。文字数を数えたいちょっとした文章書きに、枡目をタブとして扱いながらメモしたいときに、そして1枡の中で文字のバランスを取り形を整える練習に、とその扱いかたは無限大。
子どもの頃を思い出して原稿用紙に文章を書き連ねてみると、枡目や枚数を満たすことに執心していた過去を忘れるほど、その書き心地の良さにハッとさせられます。書きやすい『道』が用意された紙面を好みの筆記具で駆けめぐる自由さは、他の用紙にはない疾走感をもたらします。その走り心地は、目的地へぐんと早く着く高速道路のよう。文章書きも目的地へ早く着くようで、原稿用紙の実力は今も健在です。
考えをまとめたいときに、筆記具の試し書きに、そしてときには包み紙としても、原稿用紙は私たちの日々に今も役立ってくれるのです」
●枡目は大きく2種類
左は文章の脇に読みがなやメモを記せる『ルビ付き』、右はルビ欄がなく枡目の横幅が広い『障子枡』。使う筆記具や字の書き癖に応じて、好みの枡目を使い分けよう。
●文字が整う
1枡を『文字を均等に配分するための枠』ととらえると、バランスのとれた形で書くための練習にもなる。1文字1文字をどのように枡目に配分するか、考えながら書いてみるのも楽しい。特に日ごろ頻繁に書く名前や住所の見直しや調整に役立つ。
●文字数がわかる
上は筆者の記事原稿。1行14文字の記事だったため、14字で改行している。行数を数えながら、枡目をブロックにとらえて抜いたり足したりすると、書きながら文字数を俯瞰できるため調整しやすい。メモを記す余白も大切な記入欄。
●包んだり、台紙としても使える
原稿用紙の枡目を『模様』としてとらえると、その愛らしさに気づかされる。文字を書いているだけではもったいない! とばかりに、包装紙として使ってみるのも楽しい。柱部分を本の背に合わせて折り込み、新書や文庫サイズのブックカバーに。原稿用紙枠は本との相性も良く、劣化したら気軽に交換。
CDサイズを包んで、メッセージを直接書き添える。枠柄の出方を考えながら折ってみよう。小さなカードをマスキングテープで貼ってもスタイリッシュ。
枡目も立派な目盛りガイド線。一定の配置で何かを記録したいときにも応用できる。写真は、手持ちのマスキングテープ一覧。A4サイズの原稿用紙は、二つ折りにしてパンチで穴をあけるとA5バインダーに綴じられるのが魅力。
【おすすめの原稿用紙】
あたぼう/飾り原稿用紙
飾り枠の付いたルビ付き原稿用紙。気分に合わせて色柄を使い分けるのが楽しい。定番柄は8種類を数え、なお追加中。A4・400字詰・バラ50枚入・480円(+税)
満寿屋/原稿用紙 A4 No.108
天糊で綴じられたグレー障子枡の原稿用紙。台紙付きで持ち運びしやすく、万年筆から鉛筆まで快適な記述と筆跡を味わえる。A4・400字詰・50枚・450円(+税)
●小日向 京(こひなた きょう)
1968年東京都生まれ。共立女子大学大学院文芸学研究科修了。幼児時代から新聞書体や看板書体に興味を持ち、文字と文具に並々ならぬ関心を抱く。文具雑誌を中心に、文字を書くことや文房具について著述している文具ライター。『趣味の文具箱』(エイ出版社刊)にて「手書き人」「旅は文具を連れて」を連載中。著書に『考える鉛筆』(アスペクト刊)がある。『飾り原稿用紙』(あたぼうステーショナリー)の監修など、文具アドバイザーとしても活動している。
(文:小日向 京、編集:エイ出版社)
詳しくはこちら!
この記事を読んだ人におすすめの記事
あわせて読みたい
この記事を読んだ人におすすめの本