マニュアル原本完全復刻。
誉発動機 取扱説明書 完全復刻版
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2019.03.26
零戦のエンジン『栄発動機』をお持ちだろうか? だったら、絶対にこの一冊を買っておいた方がいい。
『栄発動機二〇型取扱説明書 完全復刻版』上製本の本体だけで、376ページ。表紙や背の金の文字は今どき珍しい箔押しだ。折り込み式の図面集に図面が32枚。さらにカラー48ページの解説本。付録DVDには貴重な現存する零戦に搭載された栄発動機の動画。価格、8000円(税別)は、あなたが零戦を持ってるなら、破格の安さといえるだろう。
しかし、実際のところ、栄発動機を搭載している零戦は世界に1機しか現存しない。
あなたがその1機を保有するカリフォルニアのプレーンズ・オブ・フェイムの人でない限り、この取扱説明書が役に立つことはないはずだ。
しかし、心に零戦を持つ人なら(なんだそれは……)、やっぱり持っておきたい一冊といえるだろう。
本書の本体である『栄発動機二〇型取扱説明書』は、76年の歳月を経て、初めてひと目に触れる資料だ。
なにしろ、戦時中は、軍事機密中の軍事機密。一般人の目に触れるものではなかった。そして、敗戦後、GHQに奪われないように、すべてが焼き払われたはずの資料なのだ。
今回、発行時点での著作者ならびに原本所有者(いずれも匿名)のご許可を得て、この貴重な資料を復刻することができた。説明書本体の内容はすべて、その貴重な原本を高解像度でスキャンし、印刷したもの。
では中身を見てみよう。
この本は説明書だから、日常的な運行の方法、整備の方法、分解整備の方法などがすべて記されている。記述を見ると、戦闘機のエンジンは、精緻な整備の必要なレーシングエンジンであったことが分かる。
ページを読み進めると、これらの時代で培われた生産、整備の技術は、間違いなく戦後日本の自動車のエンジンに受け継がれ、さまざまなレースの勝利、バイクや車の生産による高度経済成長につながって行ったかと思うと、涙なしには見られない。
それにしても、星形エンジンのクランクやシリンダーの組み付け方法を知ることができるとは夢にも思わなかった。
機体姿勢によってキャブレター……もとい気化器の状態が変化することについても詳細にかかれている。
急降下だと、燃料は濃くなって、引き起こしで+Gがかかると薄くなるらしい。その時には『之を防止する為、気化器制御弁が0Gになる瞬間に作動して燃料を制御す』るらしい。背面飛行時にも同じようなことになる。また、『宙返り中の失速』『スローロールステックスを押し乍らダイブする場合』『エアポケットに入るたる時』にもそんなことが起るらしい。
零戦の整備士やパイロットは、こんなことを考えながら、整備し、操縦していたのだ!
存在が語り継がれていた、零戦整備用の専用工具についても詳細が掲載されている。この工具も欲しい!
折り込み式の32枚の図版集も感涙ものだ。
エンジン全体のパース、カットモデルや、パーツのついたギア部分など、CADもない手書きの時代にどうやって描いたのか本当に驚く。
実はこの図面、すべてのページがそれぞれ別のサイズになっているので、手折りとなっている。非常に手間のかかった作りなのだ。
キャブレターの構造図も面白い。先に述べたGが掛かった時に、不調を来さないための気化器制御弁や、-Gが掛かった時のための気化器重力弁の構造なども細かく分かる。
カラー48ページの解説本には弊社がこれまで、栄発動機を取材してきた中で判明した構造、最近になって書かれた構造図などを収録。実機の写真や、図版を元に、栄発動機について解説する。
この一冊を読めば、栄発動機のすべてがわかる。
これに加えて、プレーンズ・オブ・フェイムにある唯一の栄発動機搭載の零戦を撮影した50分のDVDが付いてるのだから、8000円(税別)は絶対に安い。
取扱説明書の巻末には、この本ができ上がった経緯について最低限の説明がされている。
原本の写真と、その表2に『新山部長』のサインあることなどが説明されている。
栄発動機についての説明書としては、あたり前のことだが空前絶後の一冊だ。
復刻にはかなりコストのかかる手法を取ったので、おそらく再版することは難しいと思われる。そして、実は、発売開始の現時点で過半数以上が予約で売れてしまっている。
手に入れたいと思っている方は、間違いなく現時点で購入しておいた方がいい。
(村上タクタ)
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