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YOLO.style vol.07
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2016.05.11
肩コリ、眼精疲労、うつ病、偏頭痛、免疫力の低下……現代人を悩ませる原因不明の不調の原因とされている、「自律神経の乱れ」。その改善に役立つと言われているのが、「禅」。禅の教えこそが、ストレス社会を生きる私たちの精神を救うのだという。それはいったいどういうことなのか? そして、具体的にどういう形で実践すれば、自律神経を整えることができるのだろうか?
お話を伺ったのは、川野泰周さん。精神科の専門医として多くの人を検診し、現在は横浜市の林香寺で住職を務める傍ら、都内クリニック等で精神科診療にあたっている。川野さんは、「禅的な心構えをしている人は心の耐力が高い」と話す。
心を病んでしまう人は、外からのストレスをうまく処理することができない独特の考え方を持っていることが多い。そうした人たちが回復する過程を川野さんが観察したところ、それまでのストレスに対処できなかった以前の考え方に固執することを止め、「物事は変わりゆくもので、自分自身も他人も常に変わりゆく存在である」という思想に自分自身で気づくようになった場合に、その後の心の病の再発が極めて少ない、ということに気がついたのだという。
その万物はみな変わりゆく、という思想こそが、すなわち禅における「諸行無常」の考え。禅の世界は、後悔や先行きの不安が心の揺らぎの根源であると考え、変化し続ける人生をコントロールすることができないことを悟り、何よりも「この瞬間を生きる」ことに専念することの大切さを教えてくれるのだ。
禅の世界にある「諸法無我」という考え方もまた、現代人特有の心の病を癒す重要な要素だ。
私たちは、日ごろ自分と他者が違う存在であること、「自我」をもって生きている。この自我は成長過程で自然と身に付けていくものだが、これが社会に出るようになると自我と外部環境の間に摩擦が生じ、対人ストレスとして現れてくるようになる。ストレス要素が多い現代社会において、私たちは無意識にストレスから自身を守るため、自我を過度に強化させる。自己防衛として強化した自我は、結果として心の病を引き起こすことになってしまう。
森羅万象の世界において自分がいかにちっぽけな存在であるかを悟らせる禅の「諸法無我」という思想は、この自我という魔物が肥大化することを防止し、自己愛という病の原因を絶つ。“自分”に固執することで生まれる悩みから解放してくれるのである。
いま、コミュニケーション能力に問題を抱えている、という自覚がある人も少なくない。それを解決する糸口も、禅の教えに見出せると、川野さんは言う。
実は、人間は決められたことを決められたように実行することで安心感を得る生き物。だが現代社会は、個人にオリジナリティを過度に求める。つまり、自由であることによって逆に不安を感じる機会を増やしているのだ。
禅の世界は、坐禅をはじめ、食事や作務に至るまで、細かく作法やルールが決められている。それをこなすためには、今に集中せざるを得ず、自我を出す隙などない。やることが決まっていて、それを一生懸命にこなすことに重きを置く禅の教えに従うことは、心に安心感をもたらしてくれるのだ。
川野さんは、自律神経の失調により引き起こされている諸症状に悩む人たちに、病院に行く前に、一度自律神経を回復させるリラクゼーションを試すことをすすめる。気軽にできる一つが、坐禅だ。
姿勢を正して座った状態で精神統一を行う坐禅は、その最中に癒しの脳波といわれるα波を出しやすい脳の状態にしていることがわかっている。心身ともに力の抜けたリラックス状態に導いてくれるのだ。また、坐禅を20~30分続けると、自律神経のバランスをとるうえで欠かせない脳内神経伝達物質であるセロトニンが増えるという結果も出ている。
自律神経の乱れを引き起こす考え方を修正してくれる禅の教え。昔から、病は気から、という。人知れず精神的な負担に苦しんでいるなら、まずは試してみよう。そこから世界は、がらりと変わってくるかもしれない。
(ヨシザワ)
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