RC WORLD編集長 佐々木雅啓
某女流作家のエッセイで、出版を含めたマスコミの世界を「麻薬のようである」と表現していた。まさにそのとおり。1度でもその味を知ってしまったら、ズブズブとその深みにハマっていくのである。というのも、仕事のおもしろさのひとつに「多くの人と出会えること」があるからだ。普通に過ごしていては交わることのない人と、一緒に仕事をする楽しさは何事にも代えがたいものがあるのだ。
しかし、こんなことを書くと、コミュニケーション能力に長けていないと編集の仕事ができないように思われるかもしれないが、決してそんなことはないのでご安心を。イマドキの言葉でいうところの“コミュ障”なところのある自分にとって、一癖も二癖もあるベテランスタッフと関わっていくことは、若かりし頃の自分にはとても憂鬱なことだった。取材に行っても、いつもライターさんの後ろに隠れてしまっていた。やることといえば、カメラマンの機材の搬入搬出を手伝うこと。きっと、当時の取材対象者は自分のことを、カメラマンのアシスタントだと思っていたことだろう。
そんな不甲斐ない態度を見かねたのか、先輩から「いつもニコニコ、元気よくしていろ」とアドバイスをもらった。「誰も今のオマエに期待なんかしていないんだから」と。そのアドバイスに従い、とりあえず挨拶、次に笑顔を心がけるようにした。
すると不思議と現場の雰囲気が変わり、自分もその輪に加わることができるようになった。今までと違い外部スタッフから「こう撮ったらおもしろいんじゃない?」、「こういうふうに企画をアレンジしてみようよ」と提案されるようになった。いろいろなことを教えてくれるようになり、また自分のアイディアを具現化できるよう動いてくれるようになった。
自分から積極的にアクションを起こすことで、人と接することの苦手意識が少しずつ薄まっていったのだ。
かけ出しの頃は、「仕事以前に人間として使えないヤツ」と言われていたが、今では雑誌を1冊預かる編集長という立場になった。それは文頭で述べたように、自分も本づくりの『麻薬』の中毒になってしまっているからに他ならない。だって、あんなに嫌で辛くて憂鬱だった仕事から逃げ出しもせず、10年以上続けることができたのだから。
佐々木雅啓(ササキマサヒロ)。20代はフリーターとして過ごし、一念発起しエイ出版社の中途採用の募集に応募。2004年に入社。現在、ラジコン専門誌『RC WORLD』を中心としたホビー誌を手がける。