わたしがかけ出しだった頃の話。

トリコガイド編集長 原大智

私は、“かけ出し”を2回経験した。最初は大卒で食品メーカーの「カゴメ」に入社し、営業職として働いていた期間。ここで学んだ社会人としての常識、仕事をするということの土台、そこで出会った仲間達はかけがえのない財産となっているが、約3年経った頃に転職を決意した。実は大学1年生の頃から『NALU』が大好きで、それをきっかけとして編集という仕事に対して漠然とした興味をもっていたのである。在学中の就職活動では「ご縁がなかった」という残念な結果になり、既に内定をもらっていたカゴメに入社することにしたものの、「3年やっても未練が残っているようなら、もう一度トライしよう」と内心決めていたのである。カゴメに勤めて3年目の冬、何気なくエイ出版社のウェブサイトを眺めていた時に「中途採用募集のお知らせ」を見つけた。数日間に及ぶ熟考の末、「今こそ、その時!」と判断し、編集未経験者なのに編集職中途採用に応募。なぜか書類選考はパスをし面接に臨んだが、目の前に座る現相談役は「君を採らなければいけない理由はない。社員契約なんて当然できないから、アルバイト。使えなければすぐに首を切るけど、その覚悟があるのならば来てもいい」と言った。

そんなわけで、この会社に入ってから最初の一年はとにかく無我夢中だった。クビにされる怖さよりも、新卒で入社している同年代がすでにかなりの仕事を任されていることに正直驚いた。彼らに追いつくためには、かなりの仕事量をこなさなければならない。ゆえに頼まれた仕事にNOは決して言わず、休みを削ってでもそれを完璧にやり遂げようとした。平日は上司や先輩に確認しなければならない仕事を優先して行い、休日はラフ作成や資料の整理、デスクの掃除など、一人でできる作業に費やした。既に駆け出し期間を通過した同年代を横目に見ながら、歯を食いしばって3年遅れのかけ出しを倍のスピードで駆け抜けようと試行錯誤していた。かけ出しといえる期間はせいぜい3年だ。それ以上となると、自分はそのつもりだったとしても、周りがそうは見てくれなくなる。まだまだ一人前でないことは自分が一番分かっているのに、一人前の仕事を求められ、失敗するのが怖くなる。かけ出し期間は、一度の失敗ならば「だって初めてなんだからしょうがないだろう!」と心の中で開き直ることができる幸せな時だ。それを2回に分けて、人よりちょっと長めに経験できた私は、幸せだったのかもしれない。

ちなみに食品メーカーの営業マンが出版社で編集者になるだけでもまあまあ珍しいが、私はさらに「会社に1年間の休みをもらって妻と二人で世界一周の旅に出る」という荒業を成し遂げたレアケースだ。特例とはいえ、そんなことが許されたのがこの会社のいいところ。エイ出版社の編集者は、経験すべてが武器になる。ちょっと長めのかけ出し期間の経験も、会社を1年間休んで行った世界一周の旅も。ほら、何だかいい会社だと思いません?

profile

原大智(ハラダイチ)。
地元の小、中、高校を卒業し、1年間の浪人期間を経て慶應義塾大学入学。2003年、カゴメに入社。2006年にエイ出版社に入り、『ランニング・スタイル』→『クラブ・ハーレー』→『EVEN』を担当。副編集長時代の2011年、会社を1年間休んで妻と二人で世界一周の旅へ。約33カ国をフラッシュパッカー・スタイルで渡り歩き、2012年仕事復帰。そして2015年4月に『トリコガイド』の編集長となり、「これも仕事だからしょうがない……」と嘯きながら、隙を見つけては世界のあちらこちらへと出かけている。

万年筆
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  • バイシクルクラブ 編集長 岩田淳雄
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  • ランニング・スタイル編集長 吉田健一
  • 出版開発部編集長 山本道生
  • RC WORLD編集長 佐々木雅啓
  • ランドネ編集長 今坂純也
  • Discover Japan 編集長 杉村貴行
  • トリコガイド編集長 原大智
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  • ei cooking 編集長 河崎秀明
  • CAMERA magazine編集長 清水茂樹
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  • CLUTCH Magazine編集主査 小池彰吾
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